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A leaf in a bottle

とある精神疾患者の日常

気のいいおじさん

作業所にはいろんな人がいます。当然ながらあまり相性が合わない人も何人か。T廣さんもその一人。でもこのT廣さんのことを悪く言う人は私を除いて一人もいません。気のいい、そして優しい還暦過ぎのおじさんです。なぜこの人と合わないのかと言うと、彼が私の存在をあまり意識してくれないからです。

T廣さんは他の人の話をよく聞いてあげる人です。他の人が自分の言いたいことをぺらぺらと際限なくしゃべっていても、嫌な顔ひとつせずにじっくり耳を傾ける人です。なので多くの人が彼のことを慕っています。彼と話をしたい人はたくさんいて、彼が一人になると、すぐに誰かが彼の横に行って話を始めます。人望のある人です。

そういう人望のあるところが、とてもうらやましいです。そして、自分とは違って人を惹きつける魅力があって。皆に好かれる彼に嫉妬したことは一度や二度ではありません。そういうところが憎たらしいというのもまたあります。でも、一番の理由は、T廣さんは私にはあまり話しをしようとはしてくれないのです。

何となく私に話しかけにくいようでもあり、そして私がいることをあまり認識していないようでもあり。彼に話かけられたことは数えるほどしかありません。彼が話し相手に選ぶ人はいつも私とは違う人。私には何かの用事があるときぐらいです。

一番ムッとしたのが、彼が他の人が次々と帰ろうとしたとき、自分も帰ると言ったとき。理由が「誰もいないから」というもので、私はまだその場にいたのに誰もいないことにされて、この人は私がいることを全然意識してもいないのだと思いました。私は彼にとって同じ作業所の仲間という枠より外にいるようなのでした。

さらに言うと、T廣さんと仲のいいメンバーはM哲とK寛で、私の大嫌いな二人と付き合いがある上に、M哲のおかしな批評を鵜呑みにしたり、K寛が甘えてくるのに付き合って延々と相手をしていたり。最近は施設長Hに我慢ならないのかちっとも来ませんが、私とよく会話するT秀さんのことを嫌いと言っていたりして、何だか嫌だなと思いました。

彼が来ると私はなるべく彼から離れます。M哲やK寛との会話が不愉快で聞くに堪えませんし、他の人も彼の元に集まるのが分かるからです。無理に彼から話し相手を奪うこともしません。T廣さんを求める気持ちを阻止しても意味がないです。私は輪の中から離れ、自分はこの場にいてもいいと言い聞かせながら暇な時間を過ごします。

T廣さんに求められないことも嫌いな理由ですが、彼の世界に入らないでいる自分もまたいてもいいと思って、自分を慰めることにしています。