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A leaf in a bottle

とある精神疾患者の日常

落ち着かないままで

 今回はクリニックでのことを書いてみます。私はクリニックの中では自分のことに意識が向いているため、基本誰とも関わることがありません。それでも記憶に強烈な印象を残した人がひとりいました。その人を仮にXさんとしておきます。

Xさんは女性です。年齢は尋ねたことがないので分かりませんが、30歳くらいでしょうか。私の歳の見立てはあまり当たらないので、大分違うかもしれません。その女性の特徴はとにかくよくしゃべること。誰かと話すときもありますが、大抵は受付の人にせわしなくしゃべり続けていました。

その内容は実に様々。コーヒーがあるか尋ねたり、母親が来ているか尋ねたり、自分に母親から電話がないか尋ねたり、ボールペンを貸してくれるよう頼んだり。先生が薬を出してくれるのかと尋ねていることもありました。受付の人に聞いても仕方ないのに。

こういったことは普通の人でもあることですが、彼女の場合は他の人と違うところがあります。数秒から数十秒置きに何度も受付に行くのです。受付の人に話しかけて、自分の思ったことを次々と口にします。受付の人がうんざりした感じで、今ちょっと準備があるからと言って彼女を追い払っても、またすぐに戻ってきて同じようにしゃべり始めます。

そのことで他の患者とトラブルになったこともあります。「うるさいな! 静かにしろよ!」と男性患者に怒鳴られるのを見ました。女性患者から注意されたこともあります。でも、口を閉じておとなしく待つのを見たことがありません。すぐに受付と待合室の往復を始め、効き目がありませんでした。

Xさんの発言で覚えているのは、「思ったことを口にしてるだけでしょ。何が悪いの」とか、「あんたには関係ないでしょ。イライラするからこっち見ないでよ」といった反省のない言葉。正直私も結構大きな声でしゃべり続けるこの人にはイライラしました。

クリニックの中で落ち着かないんだと思います。しゃべっていないと不安や緊張と向き合うことになるから、無意識に回避しようとしているのかもしれません。ここまでひどくはありませんが、作業所にも、皆が作業している中で部屋の中をうろうろ歩き回っている人がいます。

Xさんは特に人との交流を求めてはいません。話し相手が欲しいのではなく、自分がしゃべり続けていられる状態が欲しいだけです。なので、話を遮るような人は向こうからお断りされます。

実を言うと、こういった人に自分の症状と向き合うようにしたらいいか、逆に症状から焦点をそらすようにしたほうがいいか、明確なところは分かりません。私の通うクリニックでは後者を選択しているようでしたが。薬物療法と症状に目を向けないことでその人が概ね平和なら、それは間違っているとはなかなか言い難いです。

Xさんとはクリニックに来る曜日が違うため、会わなくなりました。その後彼女がどうしたのか、私は知りません。でも、多分引き続いてどこかで迷惑な患者であるような気がします。

Xさんが落ち着けるのはどういったときなのか。ふと彼女を思い出すときがあります。