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A leaf in a bottle

とある精神疾患者の日常

退行

 心理学の言葉で「退行」というものがあります。いろいろ意味はあるようですが、ここでは幼児がえりの状態を限定的にそう呼ぶことにします。

退行は自己防衛機制のひとつと説明されるのをよく見かけます。自分を不安やストレスから守るために言動を幼児化させて逃れようとします。

作業所でも退行する人が何人かいました。まるで子供のように泣いたり笑ったりする単純なものから、気に入った相手に自分の望んだ行動を延々と強要させる重症な人まで。

子供のようにという表現がぴったりくる感じ。かなり子供っぽい人だと思っていたら年齢40を超えていると聞き、思った以上に驚いて絶句したことがあります。大人としての感性は一体どこに行ったんだろう。そんな風に思いました。

他の人と口ゲンカになった後大声で泣いたりとか、ぬいぐるみをカワイイと言ってはしゃいだりする人を見てかなり引きました。何というか、軽く非現実をここで見た感じでした。

ちなみに言うと。私はこの手の退行に対してかなり否定的です。誰かに甘えたいとか、かまってもらったり何かをしてもらったりしたいという意図をありありと感じるからです。そういうのは卑怯だと思っている私は、退行に対してかなりイライラしたものでした。

私が退行が嫌いな原因は、私の姉が退行をする精神疾患者であったこと。解離性障害があるようです。母親と親密な状態でいたいという欲求を持っていた私と、母親との同一体とも言うべき状態に依存していた姉。同じ母との間で、親密さの差別化で争いが起こったことは言うまでもなく。

そんな中で行われる退行に対し、わざとやっているとか、病気のふりをしているとひどく腹を立てて姉を攻撃したものでした。そういう経緯もあり、作業所で行われる退行に対して、何を甘えているんだとムカつきましたし、ここはそういう場所じゃないから来るなと本気で思っていました。

退行する原因は先ほど書いた通り、苦しい現状から逃れて自分を守るためです。現在形で起こる現実を受け容れられないようです。でも私は退行に対して敏感に反応してしまい、嫌悪感やイライラを抑えることができませんでした。

今でも姉とは決定的な亀裂がありますし、退行する作業所のメンバーさんとも疎遠な間柄。専門家ではないため、退行するメンバーさんの病理も分からないし、気持ちも理解できません。私ができるのは、イライラする原因から遠ざかって距離を置くだけ。それだけです。

現実から逃げるというのは誰でもよくやる手です。酒に走ったり薬に走ったり、ギャンブルや自傷行為や性行為で逃れる人もたくさんいます。退行はそういったことと同じ機能を持っています。

退行は病気だと思いつつ。私は今もこの退行とは冷静に向き合えません。退行によって母親を奪う姉を憎んだように、です。今は母親との癒着度も下がりましたが、退行がムッとすることなのは変わらず。私の困りごとのひとつとなっています。